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2015年04月11日

【知道中国 1227回】 「糞穢壘々トシテ大道ニ狼藉タリ」(小室4)

<樋泉克夫愛知大学教授コラム>
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【知道中国 1227回】         一五・四・十

 ――「糞穢壘々トシテ大道ニ狼藉タリ」(小室4)
 『第一遊清記』(小室信介 明治十八年 自由燈出版局)
 
 小室の上海到着直後、北京の中央政府は上海行政のトップである道台に対し、上海に入る手前に位置する呉淞江の河口閉塞を命じた。フランス海軍の上海襲撃を阻止しようという狙いだろう。 

 だが河口が閉塞されたところで陸路での上海進撃も容易いだけでなく、フランス海軍は閉塞個所を回避して長江を遡り、上流の南京を占領し清国を南北に分断しかねない。そうなったら社会は大混乱。その機に乗じて反清勢力が一斉に蜂起し、清国そのものが崩壊の瀬戸際に立たされる。また河口閉塞は上海に出入りする清国以外の船舶の航行を妨害することになり、諸外国を敵に回す。だから清国にとっても得策ではない――在上海のイギリス領事が縷々説得したが、やはり清国政府は河口閉塞を決定してしまう。なんとまあ事の是非を弁えない政府であることかと、小室は呆れ返る。だが、さらに驚くべきは、実行の先送りだった。国家の命運を賭けた戦争なら、なにはさて措き一気呵成が第一だろうに。

 果断遂行にはほど遠い危機感なき対応を前に、小室は「此等モ意想外ノ一ニシテ亦タ法螺タルヲ免レザルモノナル可シ」と。なんともヤレヤレ・・・。

 清仏戦争によって上海港の取扱量が激減し、上海居留外国商人は大損害を被っている。そこで上海に居留する外国商人は英・米・独の3カ国商人を代表に、各本国政府に対し清仏両国に停戦・和平を促すよう懇請した。ここで注目しておきたいのが、当時、上海を経由して対中貿易を進めていた主要国は英・独・米の3カ国であって日本ではない。いいかえるなら、当時の対中貿易に大きな利害関係を持っていたのは英・独・米の3カ国であり、日本は後発の新参者だったということだ。

 小室は主張する。ドイツとアメリカはともあれ、イギリスの場合、上海居留商人の大部分はロンドン経済界の重鎮と結ばれ、さらに政府や議会の中枢と太いパイプを持つ。だから上海居留商人の考えは、そのままイギリス政財界中枢の意向に直結していると考えて差支えないはず。ならばこそ上海居留のイギリス商人を侮ってはイケナイ、と。

 開戦当初、フランスは「一千万磅ノ上ニ出タル程」の賠償金での手打ちを仄めかしていた。だがフランスの意図を読み違えた清国政府は台湾(淡水)、福建(福州)、ベトナム(トンキン)へと戦線を拡大させてしまった。その結果、清国側に大きな損害をもたらしたばかりか、高い戦費を余儀なくされたフランスは当然のように高額な賠償金を要求することとなる。かくて「清人ノ迂愚ナルモ豈ニ之ヲ知ラザランヤ」という事態に立ち至ってしまった次第だ。

 「外人ノ皆清國ヲ以テ佛國ノ敵ニアラズトシテ其ノ敗亡センヿヲ危ブメドモ清人自身ニ於テハ泰然トシテ毫モカヽル危殆ノ心ナク其ノ不完全ナル兵備ヲ以テ佛人ト戰フベシト思惟シ傲然トシテ敵ヲ待チタル景况ナレバ」と。

 ――外国人は誰だった「清国に勝ち目はない。戦争が続いたら、清国は滅び去りかねない」と見ている。だが清国人は泰然と構えて危機感はゼロ。マトモとは言えない装備であるにもかかわらず、傲然とフランス海軍に挑もうと待ち構えている始末だ――

 事態がここまで進んでしまった以上、かりにイギリスが調停に乗り出そうとも、もはや手遅れだろう。フランスと清国の双方が「体面」と「損失」とのバランスを失しないような和平工作などは、「予ハ斷然其ノ方策ナキヲ信ズルトコロナリ」と。

 清国の時代遅れの劣悪な装備でフランス軍と戦うということは、岩に立ち向かう鶏卵であって、最初から勝ち目はない。にもかかわらず戦争を強行しようというのだから、小室ならずとも「清人ノ迂愚ナル」ことは度し難いと言いたくなろうというものだ。《QED》

posted by 渡邊 at 11:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 知道中国
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