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2015年04月20日

【知道中国 1231回】 「糞穢壘々トシテ大道ニ狼藉タリ」(小室8)

<樋泉克夫愛知大学教授コラム>
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【知道中国 1231回】         一五・四・仲八
 ――「糞穢壘々トシテ大道ニ狼藉タリ」(小室8)
 『第一遊清記』(小室信介 明治十八年 自由燈出版局)
 
 「佛人ト戰ハゞ結局ハ必ズ敗ルベキヲ知ルモノ」だから、李鴻章こそは「清國人中第一流ノ人物ニシテ佛人ニ取ツテハ一大敵國ト謂フベキ所以ナリ」ということになる。

 次いで小室の筆は清国海軍に転じた。

 これまで内外から寄せられる艦船数や大小火器は極めて充実しているとの報告から、小室は清国海軍に「畏怖ノ感覺」を感じていた。だが、自分の目で確かめ、現地に「停泊中ナル我海軍艦ノ海軍武官ヨリ其ノ説ヲ聞」いた結果、かねてから抱いていた「畏怖警戒ノ心」はたちどころに消え去ったという。

 やはり装備の面では充実しているが、その充実した艦船を「運用スル士官其人ニ至テハ一モ用ニ適スル人ナシ」というのだ。平時には英・独両国のお雇い士官が指揮して運用しているが、戦時になったら彼らは全員が「職ヲ辭乄罷メサル」ことになる。さすれば、さしもの大艦巨砲も単なる鉄の塊に過ぎない。「清國ノ海軍タル者ハ骨節堅剛ニ血肉肥満シテ而乄腦髓神經ナキノ人ノ如シ到底死物ノミ豈恐ルヽニ足ルモノナランヤ或我海軍士官予ニ語テ曰ク支那ノ軍艦ホド不規則ナルモノハナシ英式カト思ヘバ佛式モアリ佛式カト思ヘバ獨逸式モ有リ又清國一定ノ式アルカト思ヘバソレモ無シ」。かくて「清艦ノ擧動ニ就キテハ憫笑スベキヿ一々數フルニ遑マアラズ概シテ之ヲ言ヘバ類於兒戯者ナリ」と。

 簡単いうなら清国海軍の大鑑巨砲の実態は、大患虚報とでもいうべきか。装備は英・仏・独の各国製が混用されているから連係して使えない。彼らに近代海軍を運用する能力を求めることはムリだ。「類於兒戯者」、つまり幼児の戯事に過ぎない。これが結論だった。

 そこで「清國ニテ人物ト云フベキハ李鴻章一人ノミ」とまで評される李鴻章は、麾下の海軍を「旅順口ノ港内ニ封ジテ妄リニ航海ヲセシメズ」。それというのもフランスに戦敗し賠償金を払ったとしても、「尚軍艦十余艘ヲ餘シ得バ國ノ利ナリ」だからだ。いいかえるなら他日を期して手持ちの艦船を温存しようというのだ。

 最近では「支那人一般」も自国海軍がハリコの虎であることを気づきだした模様で、「兵ヲ談ズル必ズ」やフランス軍は海戦に強く陸戦に弱い、清国軍はその反対だから、「佛人陸ニ上ラバ擊テ之ヲ鏖ニスベシ」と主張するようになった。だがその種の主張は「我邦維新前ノ攘夷家ノ説ク所ト符節ヲ合シタルモノヽ如シ」。つまり自己チューで夜郎自大。ナンセンスの極みというわけだ。かくて小室は「一笑スベシ」と斬って捨てた。

 陸軍については詳しくはないと断りながらも、小室は「在清中ニ於テ見聞セシ所」によれば「一モ畏ルベキモノナシ」と綴る。その兵制は「近来ニ至リテハ其ノ無法無制不熟練ナルヿ驚クバカリ」と。たとえば司令官は隷下部隊の兵員を大幅に増員して申告し、水増し分の兵士の「給金ヲ私シテ自己ノ懐ヲ温ムル」という始末だ。「早ク謂ヘバ将官ハ兵卒ヲ食ツテ自己ノ腹ヲ肥シ居ルヿナリ」。

 1万の部隊と称するが、実質は5千人。しかも弱卒揃い。だが1万人分の給金を支給されるから、5千人分(=1万人−5千人)の給与が司令官の手許に残るというカラクリだ。坊主丸儲けならぬ指揮官丸儲けということになるが、清国では「此ノ悪弊普ク行ハレテ人モ怪マズ世間普通ノ事トナシ居ル」というのだから驚きである。

 だが、閲兵式ならまだしも、いざ有事となった時、指揮官の「狼狽ハ甚シク俄ニ兵ヲ」駆り集め頭数合わせに奔走する。だが、「平日給養スル所ノ兵ナル者不練不熟ノ者」であり、そのうえ装備は旧式極まりない。だから「戰ニ臨ミテ用ヲ爲サザルハ怪シムニ足ラズ」。加えて兵制はデタラメで兵籍の曖昧だ。そこで「戰ニ臨ミ陣亡スルモ恩給沙汰モ無ク招魂塲ニ葬ラルヽヿサヘモアラズ」。死して屍拾う者・・・あるわけがない。死に損だ〜ッ。《QED》

posted by 渡邊 at 08:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 知道中国
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