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2015年05月26日

【知道中国 1242回】 「糞穢壘々トシテ大道ニ狼藉タリ」(小室19)

<樋泉克夫愛知大学教授コラム>
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【知道中国 1242回】        一五・五・念五

 ――「糞穢壘々トシテ大道ニ狼藉タリ」(小室19)
 『第一遊清記』(小室信介 明治十八年 自由燈出版局)
 
 小室に従うなら、当時の北京、少なくとも外城と呼ばれる庶民の街を散策する際には、目に染み入るような強烈なアンモニア臭を覚悟しなければならなかったということだろう。

 ところで「サテ此ノ滿城ノ人畜ガ垂レ流シタル糞矢ハ如何ニナリニユクモノ」と小室ならずとも疑問に思うところだが、じつは「拾糞人アリテ日々街上ヲ駈廻リテ此ノ糞穢ヲ拾採シコレガ爲ニ路上ノ糞土モ新陳代謝ナシテ便通ノ餘地アルヲ得セシムモノナリ」。つまり拾糞人が日々片づけるから、街路から糞便が消える。糞便が消えた街路で、またぞろ人々は5人、10人とシリを捲って蹲るという寸法だ。だから拾糞人が消えてなくなれば、ほどなく「北京ノ街道糞ノ爲メニ壅塞シテ通ゼザルニ至ラン」。つまり糞便の山に埋もれてしまう。天子の都も糞便塗れとは洒落にもならない。「實ニ想像スルモ畏ルベキ事」ではある。

 小室は、よほど好奇心の強い人らしい。「拾糞人」が拾い集める「滿城ノ人畜ガ垂レ流シタル糞矢」の行末が気になり、「馬車ヲ飛バシテ城外」に向かった。城門の1つである「安定門外ヲ過ギタルニ一陣ノ秋風臭ヲ送リ來リ穢氣鼻ヲ衝キ殆ト堪フベカラザル」ほど。そこで悪臭のする方を眺めると、「左邊城壁ノ下ニ於テ數基K色ノ丘陵アルヲ發見セリ」。ここで注目すべき「K色ノ丘陵」だが、これこそ「則チ糞山ナリ」。

 じつは「拾糞人」は街中で拾い集めた糞穢を運んできては、「泥土ニ和シ炭團様ノ糞塊ヲ作リ積ンデ丘を爲シ日ニ曝シ乾燥シテ而乄後ニ之ヲ苞ニシ以テ南方諸島ニ輸送シテ肥料トシテ利ヲ得ルモノナリ」と。つまり北京の人糞は土と混ぜられ団子状に固められた後、肥料として南方諸島に送られていた。人糞は輸出用肥料の原料であり、安定門外は外貨獲得のための肥料製造工場ということになる。モノを無駄にしないというべきか、一石二鳥というべきか、超合理主義精神というべきか。

 小室は指摘していないが、乾燥著しい冬の北京が心配になった。街路の糞便は水分が蒸発し、粉末と化すはず。そこに朔北から冷たい疾風が吹き付けるや、粉末となった糞便は大気中に飛散する。それが通行人の目に入り、口に飛び込み・・・いや、これは杞憂というのか。そんな“些末”なことを気にしていては、生きてはいけなかっただろう。

 小室は「北京城内ニ於テ不潔ニ次ギテ困難ヲ覺エシハ塵埃ナリ」と記した。汚染の程度は「天ニ漲リ漠々トシテ日ヲ蔽フ」ほどであり、「塵埃ノ起ル甚シキヿ殆ト東京ニ十倍スルモノナリ」と見做している。かくて、風の吹かない日であっても、「馬蹄一タビ蹴レバ烟塵天ニ漲ル詩人所謂車馬塵馬蹄塵ナル者是ナリ」と。ともかくも一たび外出したら、頭の先から靴の先までが白灰色に変色することを覚悟しなければならない。

 北京の市街のみならず郊外でも道路は劣悪な状態。「大道モ土崩レ石飛ビ泥濘狼藉タリ」といった様子で、「幾十百年ノ間修繕怠リシ者カ」と疑問を呈す。

 漢民族が最も崇め奉っている孔子を祀る孔子廟ですら、時の経過の中で壊れたら壊れたまま。瓦は崩れ、屋根にはペンペン草が生い茂り、壁も柱も創建当時の華麗・豪壮さは想像すべくもないほどに廃屋状態になっていたとしても、補修の必要性は感じないようだと、当時の多くの日本人旅行者が共通して呆れ気味に指摘している。これに小室の考えを重ね合わせると、どうやら彼らは時の権威・権力を示す建造物を建設することには強い興味を示しながらも、それを保守・修繕して創建当時の状態を維持することには些かも関心を持たない。いわば造ったら造ったまま。後々までも残そうなどは気にしないということか。

 たとえば北京オリンピックに向け鳴り物入りで建設された多くの施設は江沢民の権勢を示しこそすれ、必ずしも次の胡錦濤の権威を裏付けるものではない。ならば習近平にしても胡錦濤政権時の一切は、やはり好ましいものではないということになるはずだ。《QED》

posted by 渡邊 at 00:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 考えてみた
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