h230102-0340-2.jpg

2015年06月20日

【知道中国 1250回】 「清人の己が過を文飾するに巧みなる、實に驚く可き也」(尾崎7)

<樋泉克夫愛知大学教授コラム>
chido_chugoku_hyoshiphoto.jpg

【知道中国 1250回】           一五・六・十

 ――「清人の己が過を文飾するに巧みなる、實に驚く可き也」(尾崎7)
 尾崎行雄『遊清記』(『尾崎行雄全集』平凡社 大正十五年)

 尾崎が得た情報に拠れば、清仏戦争に際しての清国側の対応は常軌を逸しているというよりはメチャクチャの一語だったようだ。

 たとえば台湾北部に位置し台湾海峡に臨む要衝の淡水港が陥落したとのことだが、守るに易く、攻めるに難いと評判の淡水港の構造からして、陥落の「原因恐らくは佛将の剛勇なるに在らず、却て清兵の法弱なるに在らん」と。たぶん守りを固めることなくタカを括っていた清国軍は、攻め寄せるフランスの艦船に度肝を抜かれ恐れをなし、司令官共々這う這うの体で山中に遁走したんだろうと推測する。

 また清国政府の対応からすれば、実力者を広東・福建などの責任者に任命するなど南方重視の姿勢は見受けられるが、これら責任者が福建・広東住民は言うに及ばず、「其印度地方に在る者と雖も、苟も支那人民たる者は、皆敵愾の志を起し、止むなくんば毒を飲食物に加へて、佛人を毒殺す可き旨を勸」めたというのだから恐れ入る。遠くインドに住む華僑にまで場合によってはフランス人を騙して毒殺せよと命令したとは、「敵愾の志」も度が過ぎている。かくて尾崎は「嗚呼、兩國兵を交ゆるに方り、無智の人民を煽動して毒殺を進むる、既に野蠻の惡習たり、況んや檄を傳へて他邦の領地に及ぼすをや」と。

 確かに戦争ではある。だが、だからといって何をしても許されるというわけはないだろうに。自国の「無智の人民を煽動して」、敵国のフランス人に対する無差別の「毒殺を進む」などは、実に「野蠻の惡習」の極みだ。そのうえに、「他邦の領地」であるインド在住の華僑にまで檄を飛ばして「野蠻の惡習」の実行を命じたというのだから、これはもう手が付けられないほどの「野蠻の惡習」だろう。さすがの清朝皇帝も「今ま上諭を以て(担当者)の妄擧を」叱責した。そこで皇帝の対応を「蓋し處事の當を得たる者」と一応は評価する。

 それにしても、である。数年前、国防なんとか法とかいう法律を定め、情況の如何を問わず、国家有事の際には海外在住者も北京政府の指令に従うべしとしたはずだが、ひょっとして、この法律の原点が清仏戦争当時の「野蠻の惡習」にあったとしたら・・・。尖閣が発端で東シナ海有事、あるいは南シナ海での島嶼領有をめぐっての紛争が勃発したとして、中国政府が「無智の人民を煽動して毒殺を進むる」なんてことになったらタイヘンだ。国際情勢は有りえないことを考えることが肝要だといわれるだけに、周辺の諸国は「野蠻の惡習」に呉々も要注意、いや厳重注意! そんなバカなことが、では済まない事態をも想定すべし。

 某日、『北清日報』が当時の最高実力者の李鴻章・直隷総督とヤング・アメリカ公使との会談内容を伝えた。李鴻章の「語氣頗る勁にしてヤングの談鋒甚だ弱し」。その内容から、どうやら李鴻章に近い記者が直接聞いた記事だろうと判断した。それによれば、李鴻章はヤング公使に、なぜフランスは福建やら台湾などという辺境で戦っているのか。辺境での区々たる勝利に喜んでいることなく、艦隊を堂々と北上させ、李鴻章麾下の北洋海軍と一戦を交えないんだ、と言い放ったとか。フランス海軍よ、来たらば一気に捻り潰してくれようぞ、というのだろう。確かに記事全般からは「人をして李氏豪岸不屈の氣象を想見せしむ」。だが、「然りと雖ども是れ唯英雄人を欺く一時の大言に過ぎず。其實行に至ては李氏と雖ども必ず之を難ず可し、否李氏の眞意恐らくは此言の反對にあるらんのみ」と。

 昔日の栄光はともかくも、大口を叩いたところで、それは大ボラに過ぎない。流石に李鴻章だ。「豪岸不屈の氣象」だと世間は持て囃すだろうが、「李氏の眞意恐らくは此言の反對にあるらん」、つまりフランス海軍にビビッているに違いない、と。

 江沢民、胡錦濤、習近平と。年齢を感じさせない豊かな黒髪から「豪岸不屈の氣象を想見せしむ」るに十分だが、その「眞意」は「此言の反對にあるらん」でしょうか。《QED》

posted by 渡邊 at 21:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 知道中国
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/143703252

この記事へのトラックバック
空き時間に気軽にできる副業です。 http://www.e-fukugyou.net/qcvfw/