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2015年06月22日

【知道中国 1251回】 「清人の己が過を文飾するに巧みなる、實に驚く可き也」(尾崎8)

<樋泉克夫愛知大学教授コラム>
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【知道中国 1251回】           一五・六・仲二

 ――「清人の己が過を文飾するに巧みなる、實に驚く可き也」(尾崎8)
 尾崎行雄『遊清記』(『尾崎行雄全集』平凡社 大正十五年)

 先ごろ「香港の民暴擧して外人に當」ったと思ったら、今度は上海に近い温州から「暴民蜂起して、宣教師其他外國人の居館を破壞し、支那政府の税關も亦破壞せられたり」との新聞情報が伝えられた。原因や背景については全く報道がなされていないが、「無智小民の爲す所強て咎むるに足らずと雖ども、溯て其原因を求むれば、各地の官吏頻に人民を煽動して、佛人を苦しめんとするが如きも亦一大原因に非ずと云ふ可らず。而して斯る暴動の弊を被る者は外人に在らずして、清廷也」と。

 「暴民」による狼藉を探ってみれば、各地の役人が無智蒙昧な人民を唆してフランス人に嫌がらせをしようとしていることが原因と考えられるが、当面はフランス人をはじめとする外国人が困惑するが、最終的には清朝中枢に跳ね返って来る。役人の軽挙妄動といったところだが、数年前の官製反日運動を振り返ってみれば、昔も今も同じじゃないか。

 フランス軍が厦門を攻撃との報道があった。ニュースソースが上海の責任者である道台ということで、尾崎は愈々ウソ臭いと痛感する。それというのも、緒戦段階でフランス海軍によって福州が一撃されたことで各地の将軍たちが戦闘意欲を喪失し、鳥の羽音にも腰を抜かすほどに浮足立ち疑心暗鬼に陥っている。であればこそ「南方駐守の将軍」たちがフランス軍による厦門攻撃の「虛説」を信じ込み、上海の道台への報告に及んだのだろう。

 ところが、である。「聞く所によれば佛士官の擒にせられたる者三名あり」て、「清将は之を諸營に送って遍く軍中に示し、頗る辱侮凌遲を極めたる後ち、終に之を殺して、其血を飲み、其心臓は之を士官に分ち、其身體は之を兵卒に與へて、食はしめたる者の如し云々。眞僞亦詳らかならずと雖ども、清人の殘忍なる必ずしも此事なきを保す可からず」。かくて、「余一讀慄然」と加えた。

 ――負け戦を繰り返し意気消沈していた清国軍だが、偶然にも3人のフランス軍士官を捕虜にした。そこで、俄かに勢いづいた司令官は3人を各地の軍営に送り凌辱を加え生かさぬように殺さぬようにじっくりと時間をかけて切り刻み、殺した末に血を啜り、心臓は士官に五体は兵卒に分け与え、これを食べてしまったようだ。この情報の真偽のほどは明かではないが、清国人の残忍さを考えるなら、なきにしもあらず――

 中国人の惨忍さを知ればこそ、このおぞましい蛮行を尾崎は信じ、かくて「余一讀慄然」ということになるわけだ。尾崎が「慄然」としてから80数年が過ぎた1960年代末の文革時、広西チワン族自治区で文革派が政敵の肉体を切り刻んだ挙句に焼いて食べてしまったという事件があったと報じられているが、まさに民族のDNAというものだろうか。尾崎ならずとも、やはり「余一讀慄然」と呟かざるをえないところだ。

 某日、福州から電報で伝えられたところでは、台湾の基隆の戦闘で清国軍が大勝した結果、「法兵數百名を截殺し、洋槍千餘を獲奪す」とのこと。だが、一帯の電信の不通状態からして、この情報には裏がある。そこで尾崎は諸般の情況から察して「清人得意の構造説」だろことは間違いないだろうと推測する。「構造説」、つまりデッチ上げである。

 万に一つ「法兵(フランス軍)」は敗北したとしても、伝えられるほどまでには周章狼狽することはない。「清将の狡獪なる豈に其軍素有洋槍を以て、僞つて佛軍より獲奪せる者と爲し、之を北京政府にじて、恩賞を貪るの意に非ざるなきを得んや」と。

 別の報道ではフランス側が人を雇って福建から台湾、さらにはヴェトナムに通ずる「電線を割斷し、以て軍報を阻」もうとしたとのことだが、電線は、「寧ろ佛軍に利有て清國に利なし」。いや清国は利用することすら知らない。かくて尾崎は、「清人己が陋見を以て他を準則す、一笑す可きのみ」と。ズバリ。バカに付ける薬はない、ということでしょう。《QED》

posted by 渡邊 at 20:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 知道中国
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