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2015年07月20日

【知道中国 1259回】 「清人の己が過を文飾するに巧みなる、實に驚く可き也」(尾崎16)

<樋泉克夫愛知大学教授コラム>
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 【知道中国 1259回】             一五・六・念八
 ――「清人の己が過を文飾するに巧みなる、實に驚く可き也」(尾崎16)
 尾崎行雄『遊清記』(『尾崎行雄全集』平凡社 大正十五年)

「余之を見て禽獸食を爭ふの状あるを嘆ず、禽獸尚ほ禮讓の道を知る者あり、支那人の人毎に盗心は所謂人を以て飛禽走獸に如かざる者」とは・・・彼らの振る舞いは犬畜生がエサを爭っていると同じだ。「禮讓の道を知る」犬畜生がいるというのに、この浅ましい姿は何というザマだ。犬畜生にも悖るではないか。「盗心」が中国人に「飛禽走獸」以下の振る舞いをさせてしまうのか。それとも中国人そのものが自らの心に巣喰っている「盗心」を消し去ることに努めようとしないのか。

 某日、台湾における清仏戦争に関する責任者たちに対し、清朝中枢から論功行賞が発せられた。フランス軍に敗れたにもかかわらず、基隆防衛責任者の劉銘伝は福建巡撫に昇進。一方、船政大臣と福建巡撫は解職処分となる。ところが、この両人と同等の失策を犯した張佩綸は責任を問われることはなかった。敗北を勝利と捏造報告し出世した劉銘伝。どうやら「年少氣鋭、長身白皙にして頗る皇太后の寵遇を受」けるがゆえに不可解極まる甘い処分の張佩綸――綱紀もなにもあったものではない。やはり「獨立だに保持する能はざるの形勢」に陥っていることは、当然が過ぎるほどに当然だろうに。

 11月に入った。台湾攻略フランス軍の指揮官である「佛将クールベー」の要請するままの援軍がヴェトナム駐留軍から派遣されてきたなら、もはや台湾は陥落するしかなく、台湾が生みだす「毎年三百五十萬兩」の資産は、フランスの懐に入ってしまう。勝利の暁にはフランス軍は兵を休めるだろうし、彼我の形勢からして清国軍も攻勢に転ずることは先ずはなさそうだ。つまり「彼我互に兵を交へずんば余清國に留まるの徒に日子を空費するに過ぎずと」。このままでは戦場記者の任務が果たせないじゃないか、といったところか。

 11月3日は天長の佳節。上海に「碇泊各國軍艦皆我が皇帝の爲めに、其桅檣を飾る、幾百の旌旗雨を帶て暴風に飄へる其觀甚だ壮んなり」。式典は我が海軍の扶桑艦下甲板で粛々と進む。「内外各國の武官、皆大禮服を穿て在り、堂々たる威容光彩四面に爛發す」。確かに悪天候に見舞われはしたが、尾崎が見るに「宴席の整然たる装飾の美麗なる、接待の懇篤なる、復た寸毫の遺憾なき者の如し」。だから、仮に好天であったなら、「更に一層の盛況を現じ、以て辮髪奴の耳目を驚破るせること必せり。惜い哉」。確かに「惜い哉」である。 

 「佛公使パテノードル」も招かれて参集していた。若いが「豪邁不屈の氣象眉目の間に現はる」と。その傲岸不羈な佇まいに「支那人の望んで之を恐るゝ亦宜ならずや」。さぞや「辮髪奴」はビビッていたに違いない。敬ではなく、恐して遠避く、であったろう。

 「此日我が領事館も亦酒菓を備へ聖節を賀するの人に供し、夜宴を張て各國領事縉士を招く、在留日本人皆業を休んで聖節を祝す、忠君愛國の情掬す可し」。「忠君愛國の情掬す可し」から、尾崎のみならず、当時の日本人一般の偽らざる至情が読み取れそうだ。

 翌日、家族が日本から送って寄越した冬支度を税関に受取りにいくも、税官吏はなんのかんのと口実を設けて許可証を出さない。日参の末にやっと受け取ったが、「税關吏の虛儀を守て人を苦むる實に驚く可し」。真に持ってセコい。いやらしい限りだ。

 いよいよ帰国の準備である。家族や知己への土産を買いに街へ。土器を買おうと値段を問うと、「店主答ふるに二十有餘元を以てす。清商價を二三にするの狡猾手段は余既に熟知す、因て二元にして可なるを告ぐ、店主怫然として怒て色あり、余冷笑して出て僅に數歩を行けば、店主忽ち顔色を和らげ、大聲疾呼余が歸り買はんことを請ふ、其虛喝乞狡獪毫も我が縁日の槖駝師に異ならず、一笑す可きのみ」。

 6日に上海を発し。8日に長崎に入港す。「身の塵界を脱し仙境に入れるを覺」えた尾崎は、「身を支那の俗境に置て日々俗人と交」わった日々の記録を閉じ、筆を擱いた。《QED》

posted by 渡邊 at 20:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 知道中国
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